ふいちゃんの中国日記生活編/大連カラオケ事情
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2日連続で飛行機の離着陸が出来そうにないほどの霧の天気が続き、天気予報通り、夜から雨になった。翌日、日本へ帰国するというお客様を案内して食事の後、カラオケへ行った。直前に電話をして包間の予約を入れていたのだが-----。
店に着いたら、チーママが「1階の大広間でいいよね」と言うので「いや、さっき予約したよ」と言って2階にある包間へ行こうとしたら、「では一番大きい部屋で」という。どういうことかと思ったら、実際には包間は予約で埋まっており、30人は入れる一番大きい部屋しか空いていないということであった。つまり、電話を受けたXお嬢さんがまちがえたようなのである。 とりあえずそこを使ってくれという意味であることがわかった。30人も入れる大きな部屋でお客様とお嬢さんの合計4人というのはガランとしすぎているが、なれてくるとテレビ画面は大きいし、ゆったりできるのでけっこうお客様は気に入っているようであった。 もし、大口の客が入ったら、わたし達はここを出なくちゃいけないなあと冗談まじりに話していたのであったが、まさかこういう結末が待っていたとは想像もしていなかったのだ。 接待したお客様はカラオケが大好きで、すでに何曲か歌っていた。21時過ぎになって連絡係りの男性が部屋のドアを開けて入ってきた。入口近くでわたしが指名していたXお嬢さんに向かって中国語でこう伝えたのである。 「Xさんをご指名のお客さんが5人連れで間もなく店に来るから、この部屋を空けるように」と。その連絡係りは日本人客は皆、中国語が解らないだろうと思っていたのであろう。でなければ、客に聞こえるような声でそんなことを言うわけがないのだ。ところがこちらはその程度のことは聞いて解るので、思わずそのことをお客さまに通訳してしまった。 お客様もわたしも顔色が変わっていた。この部屋が21時過ぎには予約が入っているということは全く聞かされていなかったのだ。同じXお嬢さんの客で、2名の先客を追出して5名の客にこの部屋を使わせるという意思決定を店側が一方的に通告したということに驚いたのだ。 こういう場合、わたし達日本人からみれば、まずママかチーママが客のところへやってきて、こういう事情なので申し訳ないが1階の大広間へ移ってくれませんか、くらいの手順は踏むであろうと思う。そうすればわたし達もあっさり、「ああ、いいよ」と言っていたかもしれない。 だが、実際は何の前触れもなく、いきなりメッセンジャーボーイに追出し決定事項を連絡させたのである。確かに店から見れば2人より5人のほうが売上的にはいい筈。これが、指名のお嬢さんが別々というのであればまだ話はわかるが、同じ1人のXお嬢さんが一方的に先客(2人)を追出して後客(5人)を優先する結果になったのだ。 1階の大広間に移動すればお客さまはカラオケがほとんど歌えなくなる。なぜなら1台のカラオケセットを40人前後の客が使うのだから、それこそ30〜40分待って1曲といったペースになってしまう。これではお客様の接待の意味がなくなる。 結局、わたし達はこの店を出ることにした。お客さまのほうが気を使ってくれて、わたしがよく最後に歌う、いわゆるラストソングを歌ってから出ましょうということになった。そのラストソングを歌っていたらチーママが慌てた様子で部屋に入ってきて、どうして帰るのかと聞くが、これはあきらかに“手順”前後である。 “手順”はもともと囲碁の専門用語で、着手の順番であるが、結果的に碁盤の上の石は同じ位置関係にあっても打つ順番が違うと戦局は月とスッポンほど違ってくる。好局をたった一度の手順前後で敗局にしてしまった事例は五万とあるのはご存知の通り。 この場合も、チーママが部屋にやって来た、メッセンジャーボーイが部屋にやって来た、という事実は同じであるが、手順(順番)が違ったために全く違った結果になってしまった例と言える。 こうしてわたしは面子をつぶされた形になり、お客さまも恐らく同じように感じたのであろうと思う。お客様には気分を害して申し訳なかったが止むを得なかった。いい雰囲気で接待の時間は流れていたのであったが、メッセンジャーボーイの一言で情況ががらりと変わってしまった。 囲碁の手順前後は当人の責任であるが、今回の手順前後は当人には関係ないところで発生している。これはXお嬢さんにとっても同じかも知れない。 店を出て歩いて5分くらいのホテルまでお客様を送りながら 「よほどの重要な大物顧客だったようですね。」 「21時過ぎになって予約なしで、そういう部屋が取れるのは確かにそうかも知れません。」 「そういえば、いつもは帰り際にはチーママかママが、指名したお嬢さんと一緒に客を出入口まで送って来るのに今夜は全くありませんでしたね。」 「支払いが終ったら、待たしていた5人連れの大物客の方へすぐに行ったのだと思います。」 「ふーむ、現金なものですねえ。」 「まあ、わたしは小物ですから。それにしても今夜は大変申し訳ないことになってしまいました。」 「いやいや、いいですよ。気にしないでください。“中国は何でもあり”ですから。」 「次回は気分治しで別のところへご案内しますので。」 「まあ、あまり気にしないでください。」 「この度の出張、大変ご苦労様でした。それではあしたはどうぞ“祝一路順風!”で。」 こうしてホテルまでお客様をお送りして味悪なその日が終った。 【註】 祝一路順風! zhu yilu shunfeng ! ジュウ イールウ シュンフォン 道中ご無事で! | |||||