ふいちゃんの中国日記

ふいの中国語講座

蜀犬吠日

2008年2月29日

「四字熟語ひとくち話」(岩波新書別冊10・岩波書店辞典編集部編 \680円)という本がある。なるほどなるほどそういう意味だったのかなと痛く感心するところが多かったのだが、この「蜀犬吠日 しょっけんはいじつ」のところに来て、はたと疑問を感じざるを得なかった。

「蜀は山地で霧が多いので、めったに日をみることがない。そのため、蜀の犬はたまに太陽が見ると怪しんで吠えた」と説明があるのだが、これは違うと言わざるを得ない。この説明を書いた人は成都へ行ったことがなく、耳学問で書いた可能性がある。

“めったに日をみることがない”のは事実であるが、その原因が“山地で霧が多い”というのは事実とは違う。蜀はいまの四川省成都市とその周辺を指すのだが、もともと成都盆地は日本の九州ほどの面積の大盆地である。周囲は険しい山で囲まれているのもまちがいない。

内陸気候型の成都盆地はその地形的背景から年中湿度が高く、その上空はいつも厚い雲が覆っているのである。もちろん、季節によっては霧が多いこともあるが、それは太陽が見えない一つの条件であって、たとえ霧が消えてなくなっても太陽は見えないのである。

ときには成都市の上空を分厚い雲が覆い、真昼間からまるで夜になったように真っ暗になったこともあった。飛行機で成都空港へ降りるときはこの分厚い雲を上から下へ突き抜けなければならないが、ときとして飛行機がガタガタと大揺れしたこともあった。そのくらい、成都盆地の上空は常時、雲の層が厚いのである。だから太陽が見えないのである。

日本のように青空というのはない。太陽がどんよりと姿を見せたときに成都の人々は「太陽が出た。太陽が出た。」と話題になる、そのくらい太陽が姿を見せることは少ない。

こういう“あれれ”というところに出くわすと、なるほどなるほどと感心して読んできたその外の四字熟語の説明内容は果たしてどうなのかとついつい感じてしまうのである。 

最後に愛用の小学館中日辞典を調べたら、何とここにも「蜀は山地で霧が多く、太陽を見ることが少ないので云々」と太陽が見えない原因が霧になっているではないか。一体どうなっているのだろう。

【註】
蜀犬吠日 shu quan fei ri シュー チュエン フェイ リー
     (直訳:蜀の国の犬は太陽をみると吠える)
     (成語)見識の狭い人は何でも不思議がる(こと) (小学館:中日辞典)