ふいちゃんの中国日記

文化編/伝統・風習

工場のトイレ

2005年12月26日

 工場は小物を買うときはわたしに関わりなく注文するが、いざ金を支払う段階になるとどんな小額でもなぜかわたしにサインを求めに来る。買っておいて金を払わないわけにもいかないのでサインはするが伝票の中身を一応見ることにしている。そうすることによって会社の動きが金の面からよく理解できるからだ。
 きょうもいつもの担当者がわたしの机までいく枚かの伝票をもってきた。みていると「衛生紙」というのがあった。言わずと知れた「トイレットペーパー」である。種類が2種類あって、長、短と区別している。思わず聞いた。
「これ何だい」
「手紙」
「うん、それはわかっている。この長、短というのは」
「あ、これですか。この短いのは男のトイレ用。長いのは女のトイレ用」
「ヘー、なんでそんな区別があるの」
「長いほうは全員に毎月1巻あて支給しています」
「ヘッ、初めて聞いたぞ」
「前からそうなっています。そのかわり、女性用トイレには紙は置いてありません」
「えー、どうして。不便だろうが」
「以前は男性用トイレと同じように、女性用トイレにも紙を置いていましたが、すぐになくなってしまうので置かなくしました。そのかわり、毎月1巻を支給しているのです」
「すると娘さんたちは毎日の使用分を小刻みに切って持ってきているということかい」
「はい、そうです」
「じゃあもし、忘れたらどうするのだい」
「ハッハッハ、そんなことは絶対にありません」
 こういう話をわたしも真面目に聞くものだから担当の女の子も真面目な顔で答えてくる。だが、こういう話はわたしにとっては非常に新鮮なので思わずいろいろと聞いてしまうことになる。どうやらこういうことらしい。女性用トイレの紙はほんとにすぐなくなるのだという。すぐなくなるということを知っているので皆、紙があるうちに当日分の使用予定量を確保するのらしい。男は大だけで済むが女はそうはいかないということで、使用量は男の5~6倍になるようだ。だから、1巻はすぐなくなるのだという。それで苦情がでるので全員に1月1巻を支給する方法へ切り替えたというのだ。
「わたしの前に勤めていた工場もそうでした。女性用トイレには紙がありませんでした」
「ふーん、そんなものなのかねー」
「それにですよ。女性用トイレの扉にはいろいろ落書きするのですよ。絵を描いたり、字をかいたり、いろいろです」
「ふーむ、それと紙を置かないこととはどういう関係があるのだい」
「いえ、それとこれとは関係ありません」
「だから、中国のトイレには扉のないのが多いのかねー」
「それは関係ないと思います」
 ふたりとも真面目な顔で話しているので、事務所の中でこんなトイレ談義をしているなどと誰も思わないだろうが、女性用トイレを覗いたことなどないから、まさか紙がおいていないとは想像もつかなかったぞ。ましてや、扉に落書きがいっぱいしてあるなど誰が想像できようか。男トイレのほうは紙もちゃんと置いてあるし、落書きなどまったくないのだ。それにしてもきょうはえらく新鮮な話だったなー。これでまた一歩、工場への理解度が深まったわけだ。まだまだ知らないことが出てきそうな予感がする。

 【註】
   衛生紙:weisheng zhi(ウェイションジー)トイレットペーパー
   手紙:shouzhi (ショウジー)トイレットペーパー