ふいちゃんの中国日記

仕事編

ビタ一文まけない

2008年7月15日

樹脂成形品は通常「金型」を用いて作る。原油を原料にして各種の成形材料が合成されている。ごく一般のPE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PA(ポリアミド=ナイロン)からPC(ポリカーボネート)、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンの重合体)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、LCP(液晶ポリマー)等々、それぞれの用途に応じて使い分けされる。

LCPは耐熱性に優れ、210〜220度の半田温度ではまったく変形することはない。だから、コイルのカラゲ半田がなされるボビンには最近よく使われている。しかし、こういう特殊機能を有する成形材料は非常に高価で、1kg200円台の安い他の成形材料にくらべると1kg2700〜3000円と目の玉が飛び出るほど高い。

どのような成形材料であれ、金型に溶解した材料を流し込んであの複雑な形状を作る。金型の良し悪しは製品の良し悪しに直結している。一般に小さな製品では一つの金型で複数個の製品を同時成形する。そのほうがコストが安くなるからである。1個取り、2個取り、4個取り、8個取り、16個取り、32個取りと増えていく。場合によっては6個取り、12個取り、24個取りと増えていく場合もある。

形状、寸法、目標コスト、生産数量から技術的に可能な限り取数を増やしていく。ところが取数が増えれば増えるほど製品のバラツキは大きくなっていく。どこで妥協するかは金型技術と成形技術で決められると言っても過言ではない。

取数が何個であろうと成形品の形状、寸法には当然ばらつきが出る。なぜなら、金型の形状、寸法が完全に同じとしても樹脂が流れるときの圧力分布にバラツキが発生するからである。成形機からの吐出口は1個であるが、そこからランナーと呼ばれる溶解樹脂の流れ道があって取数によっていくつかに分岐していく。最後にゲート口(樹脂の注入口)から最終目標の金型内に流入するのだが、流れていく途中で距離によって圧力に差が生じてしまうのは避けられない。これが成形品の寸法や外観がバラツク原因である。ましてや金型寸法をまったく同じに作ることはできないのだ。

だから、成形品はたとえ寸法が図面公差をわずかはずれていても使用上、製品機能上問題ない場合はほとんどの客先は特採してくれるか、場合によって図面寸法を変更さえしてくれるのである。

ところが、なかにはこういう配慮をまったくしてくれないところがある。図面を100%完璧に満足しないと承認しないというのだ。つまり「ビタ一文まけてやらない。」というわけである。すでに現在使っている金型での成形品は図面を外れている箇所が何箇所かあるのだが使用OKになっている。ところが金型寿命が切れて更新金型を製作する場合はダメだというのだから、これはもう感情の問題である。

結果としてどうなるかというと、修正する回数が増えて金型製造コストが高くなるのである。一般論から言って図面を100%満足させることは技術的に可能である。しかし、完璧主義の要求は金型製作費を高くしてその結果、客先会社の原価を押し上げることになるから決していいことではないであろう。わたしたちも学習能力が人並みにあるから、そういう客先の金型見積は修正回数を多く見込んで必然的に高く設定せざるを得ないからである。つまり金型費を上げているのは客先ということになる。

「ビタ一文まけない」から得しているようにみえて、実際は逆に損をすることになっていくのである。